これまではモノクロフィルムの画質を語るうえでは、フォーマットの差は絶対的なものでした。ライカ判は中判を越えられないし、中判は大判を越えられませんでした。

しかしながら、ここ数年でフィルムの解像力は飛躍的な進歩を遂げたことで、ライカ判においても非常に高い解像感が評価されることとなり、上記の常識も揺らいできました。今回は最新の高解像フィルムがどの程度の肉薄できるかを作例を通して評価します。
0. フィルムの解像度の評価方法
まず初めに、現在手に入る高解像なフィルム(lp/mm=~200)のデータをまとめました。
フィルム銘感度解像力(lp/mm)感光領域
CMS20Ⅱ20800オルソ
Orthopan UR50800オルソ
Copex Rapid50600パンクロ
Ortho 2525330オルソ
HR-5050280赤外
Retro80S80280赤外
RPX2525260パンクロ
Delta100100200パンクロ
AcrosⅡ100200オルソ
Tmax100100200パンクロ
※lp/mmとは1mmの幅の間に何本の線を表示できるかを示したものです。感覚的にはdpiと近いものです。

感光領域に関しての説明はこちらを参照してください。


lp/mmの値とフィルムサイズから、フォーマット上に幾つのラインの交差点が描けるかが計算できます。
1)ライカ判フィルムにTriX(lp/mm=100)を使用した場合
(100x36)x(100x24)= 864x10000(864万)

2)ライカ判フィルムにAcrosⅡ(lp/mm=200)を使用した場合
(200x36)x(200x24)= 3456x10000(3456万)

3)6x9判フィルムにTriX(lp/mm=100)を使用した場合
(100x56)x(100x84)= 4704x10000(4704万)

4)6x9判フィルムにAcrosⅡ(lp/mm=200)を使用した場合
(200x56)x(200x84)= 18816x10000(1億8816万)

以上の結果を踏まえて、序盤に紹介されたこれまでの常識というのは正しそうなことがわかります。しかしながら、ここにCMS20Ⅱなどの最近開発されたフィルムを当てはめるとどうなるでしょうか?
5)ライカ判フィルムにCMS20Ⅱ(lp/mm=800)を使用した場合
(800x36)x(800x24)= 55296x10000(5億5296万)

以上のようにCMS20Ⅱを使用すれば、従来の高解像フィルムを使った中判フィルムの解像力さえ超えることができるのではないかと思われます。

1. 検証方法
検証に際して、フィルムのアスペクト比と感光領域を揃えました。焦点距離に関しては微妙に合わせられなかったのですが、三脚に定点からの撮影をしていて、被写体との距離は変わっていないため良しとしています。
CMS20に対抗するフィルムは、ライカ判フィルムの多くがF値が1.4~2.0程度の物が標準レンズとされているのに対し、中判ではF値が2.8~4.0程度の物が標準レンズとされていることが多いので二段分明るくとれるISO100の中から選びました。

ライカ判
カメラ:NikonFE
レンズ:Nikkor50mm1.4
フィルム:CMS20Ⅱ
現像薬品:AdotechⅣ

中判(6x9)
カメラ:FujicaGW690
レンズ:EBC Fujinon 90mm3.5(35㎜換算39mmの画角)
フィルム:AcrosⅡ
現像薬品:ミクロファイン

2. 作例
風景
左:ライカ判(CMS20Ⅱ), 右:6x9判(AcrosⅡ)
DSC_4884DSC_4897-3











風景(中央部拡大)
左:ライカ判(CMS20Ⅱ), 右:6x9判(AcrosⅡ)
DSC_4884-2DSC_4897-2











ブツ撮り
左:ライカ判(CMS20Ⅱ), 右:6x9判(AcrosⅡ)
DSC_4891DSC_4900











ブツ撮り(拡大)
左:ライカ判(CMS20Ⅱ), 右:6x9判(AcrosⅡ)
DSC_4891-2DSC_4900-2











夜景
左:ライカ判(CMS20Ⅱ), 右:6x9判(AcrosⅡ)
DSC_4895DSC_4899











夜景(拡大)
左:ライカ判(CMS20Ⅱ), 右:6x9判(AcrosⅡ)
DSC_4901DSC_4902











3. 評価

特に解像という点では、拡大画像の方からよく見てみましたが大きな差は見られませんでした。CMS20Ⅱの方がコントラストが高いので高画質っぽく見えていますが、解像のエッジのラインなどを評価してみると大差ないことがわかります。これはCMS20Ⅱがフォーマットの壁を越えたことを意味します。
しかしながら、これほどまでに高コントラストという事は露出を誤った場合の誤魔化しがかなり難しくなり、また日中の強い光の下でポートレートなどの繊細な光のバランスを必要とする撮影は難しいでしょう。かなりピーキーなフィルムといえます。また、カッコよくとれますが、かわいくふんわりとした表現は難しそうです。このような現象は高解像フィルムと汎用フィルムの比較をした時にも表れていました。やはり高解像と高コントラストは結びつきがあるようです。

4. 付録
ライカ判(CMS20Ⅱ), 左から露出補正+1, 0, -1
DSC_4888DSC_4889DSC_4890
















高コントラストゆえに露出をアンダーに間違えると簡単に画像として崩壊してしまいます。緩やかな光の中での撮影(窓のレース越しの冬の西日を使用しての撮影)ですら簡単に画像として成り立たなくなるので、かなり慎重に使用する必要があるようです。オーバーにずれた分はまだ何とかなりそうですが、やはり適正露出からのミスの影響は大きいです。

5. 総評
解像という点においてはCMS20Ⅱがかなり優れていて、中判と同程度の解像感を持っていることがわかりました。しかしながら、高コントラストのためかなりピーキーな設定になっており、露出計と三脚は必須だという事がわかります。
また、CMS20Ⅱは専用現像液の使用が推奨されていて、100mlで3000円弱,大体135フィルムの現像コストは600円/本となり、ランニングコストが意外と高くなることに注意が必要です。
いずれにせよ、なかなか面白いフィルムが現れたという認識は間違っていないようです。こちらのフィルムを使ってソリッドで硬い印象の写真を作ってみるのも面白いでしょう。