冬というのは、フィルムカメラを愛好する者には日照時間や光量の減少など、なかなかに付き合いづらい季節です。一方で、年の瀬という事で旧交を温める機会があったり、クリスマスやお正月の賑わいなど、スナップとして残しておきたい風景に出会う事も多いです。そこで高画質なISO100程度のフィルムにするか、増感も出来てとりあえずネガとして残して置けるISO400程度のフィルムにするかで煩悶する人も多いでしょう。ライカ判であれば明るいレンズも多くまだ対応しやすいですが、特に中判カメラで画質に誇りを持っている人には頭の痛い問題でしょう。

それらを踏まえて、ポケットに入るハーフカメラをサブとして持ち歩くというのはいかがでしょうか?今回はハーフカメラをサブにした時の、描写や使用感などをレビューしていきます。
0. ハーフカメラの概要
ハーフカメラとは、通常のライカ判フィルムの受光領域の規格を半分にして、その分二倍の枚数が撮れるカメラです。下の図を見てもらえれば違いがよくわかると思います。

ハーフサイズ

ハーフカメラは受光面積が半分になっているために、普通のライカ判カメラと比べていくつかの特徴(傾向)があります。

1.1 コンパクトなサイズ
ハーフカメラは受光面積が半分になっていて、多くの部分が簡略化されているためコンパクトに作られています。
レンズは小さく作られ、その分カメラ全体の厚みを小さくすることができます。
また、受光する幅が18mm縮まった分だけカメラを幅方向に短くできます。
最後に、レンズの焦点距離は30mm程度でf3.5前後とパンフォーカスを前提として考えられているので、ピント合わせは目測や固定(3m前後)の物が多く、一眼レフカメラやレンジファインダーカメラと比べ高さを抑えて作られています。
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1.2 シンプルな操作系統
ハーフカメラはプロ向けというより、サブカメラや大衆機として作られているので、最低限の設定で撮影ができるように作られています。操作系統は三つに大別され、シャッターボタンだけのもの、低速シャッターに限り絞り調整が可能なモノ、ピントからシャッタースピードと絞り調整まで可能なものがあります。

1.3 経済性
ハーフカメラは通常の倍の枚数が撮影できるので、ランニングコストを低く抑えることができます。結果的にフィルムを長期間入れっぱなしになることが多いので、高感度のフィルムを入れた方が無難です。

1.4 縦長フォーマット
通常のフォーマットを半分にしている都合上、殆どのハーフカメラは縦長のフォーマットになります。縦長フォーマットになると人を撮るときに都合がいいので、誰かとお散歩するカメラに向いています。また、カメラ自体が小さいので構え方次第で横長のフォーマットへの切り替えも無理なく行えます。

2. 検証
今回はフルマニュアルで撮影可能なOlympus PenSと、一眼レフNikonFE+50mm1.4を用いて比較していきます。露出不足時のサブという序文の想定で、HP5+(400)を二段階増感(1600)しています。PenSのピント合わせは目測なので、NikonFEでピントを合わせたときの距離に設定しました。

Camera(Half): Olympus PenS (D.Zuiko 3cm2.8)
Camera(Full): Nikon FE + Nikkor 50mm1.4
Film(135): HP5+
Dev: Rodinal(1+25), 20℃, 12min
※適正露出, +2, -2の露出設定で撮影

2. 作例
作例1 夕景(適正露出のみの比較)
Nikon FE
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Olympus PenS
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作例2 夜景
Nikon FE(+2, 適正露出, -2)
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Olympus PenS(+2, 適正露出, -2)
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中央部分拡大
Nikon FE
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Olympus PenS
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作例3 ブツ撮り
Nikon FE(+2, 適正露出, -2)
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Olympus PenS(+2, 適正露出, -2)
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作例4 ブツ撮り
Nikon FE(+2, 適正露出, -2)
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Olympus PenS(+2, 適正露出, -2)
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3. 作例評価
・全体的にPenSの方の作例はアングルが雑になっています。これはPenSの場合はカメラを縦に構えなおす必要がありますが、PenSのファインダーではザックリとした画角しかわからないのでこのようになっています。ハーフカメラは構図を丁寧に設定するよりも、被写体を中心において撮影した方が良さそうです。
・作例1を見る限り、諧調表現に関してはハーフカメラでも悪くなさそうです。粒子感もある程度光量のある穏やかな条件下ではそれほど悪くなさそうです。
・作例2では拡大写真と合わせて、粒子感と解像感の差がよくわかります。看板の文字などの細かな情報の解像感はフルサイズに劣ります。また、拡大画像の方では粒子感の差も顕著に表れていますが、全体感として評価すれば比較的に粒子感があることは否めませんが、画としては崩壊していません。
・作例3ではブツ撮りから最短付近の描写性能の違いを比較しました。露出設定を同一にしていますが、焦点距離が異なるので、フルサイズの方がボケが大きいです。つま先部分の微妙な凹みや質感などの表現は、やはりフルサイズの方が一枚上手です。
・作例4では中距離のポートレート撮影を想定した距離での比較を行いました。作例3ほどの描写の差は見られず、ハーフカメラは1mから無限遠くらいで使うのが良さそうです。

4. 総評
ハーフカメラを使ってみて、一番実感したのは「かるいカメラ」だという事です。多くのハーフカメラはピントは目測もしくは固定で、露出もやや曖昧でファインダーも参考程度です。緊張感のある一回撮りの撮影というよりは、たくさん撮って良いものを選ぶというのが良い使い方だと思いました。
画質に関しては、ハーフカメラの先駆けであるPenの初期の構想通り「サブカメラとしてメインカメラと同程度の描写を出力する」というのは達成されているように感じます。2m~の描写に関しては、粒子感を差し引けば、細かな部分では差が出るものの全体として評価すればそれほど悪くないと思います。開発当時のメインカメラの想定はバルナックライカにエルマー5cm3.5だったので、ISO100程度のフィルムを使えば粒子感も抑えられ、それとの差はかなり小さくなるのではないでしょうか。
強いカメラは備えておいた方が良いかと思いますが、たまにはハーフカメラで構図や露出ではなく心の赴くままにシャッターを切ってみるのも楽しそうじゃないでしょうか?

また、高温現像での作例は粒子感を強調するためにハーフサイズを使用しています。こちらも参考までにご覧ください。